郵便局のお姉ちゃん

読みにくい場合はPDF版をご覧ください。

あらすじ

郵便局に勤める魚谷ヤマメは、日常的に上司からセクハラ・パワハラを受けていた。
セクハラを働く上司の名は福丸太志。40代にありがちな加齢臭と、名前負けしていない肥えた容姿が特徴的であり、上司である自分を避け続けるヤマメに対して執拗に迫る等、問題行動が多くみられる人物である。仕事の要領が悪いことも相まり、面食いのヤマメにとって福丸は最も毛嫌いするタイプだった。
大慌てな年末ということだけあって、仕事も辞めるに辞められない。そんなヤマメを救うのはアルバイトの男子高校生三人組だった。美人で仕事をそつなく熟すヤマメに好意を持っており、ヤマメもまたエネルギッシュで若々しいイケメン達に囲まれてご満悦。
そんな様子を見かねた福丸は、嫉妬から更なるパワハラをヤマメに与えてしまう。局内の忘年会でダンスを強要させた挙句、ヤマメに好意を寄せる三人衆を横暴な権力で遠ざけるのだった。
愚痴程度で抑えていたヤマメも、遂に爆発した怒りを福丸に直接ぶつけた。

これを受けた福丸は予想外にも激しく慟哭して本音を漏らすのだった。

第一話 -郵便お姉ちゃんの舌打ち-

「辞めたい」
郵便局に勤める女性社員こと魚谷ヤマメは、最近よく一人の上司と対立していた。
私が出勤したと知るや、その上司が背後から近づいてくる。そして、無防備である私の頭を撫でてきた。
「ヤマメちゃん、おはよう」
「ッ……! お、おはようございます」
上司の手が触れて全身の毛が逆立つ。私は条件反射でそれを力強く振り払うと、上司の福丸はあからさまに不機嫌な表情を浮かべた。
「あのさぁ、ヤマメちゃん。朝からこんなことは言いたくないけど、そんな露骨な態度って失礼でしょ。もう立派な大人なんだしさぁ、もう少し社交性持とうよ」
「はぁ、すいません」
あまりにもキモかったんで。なんて口には出さない。
福丸太志。私の上司かつ最近の悩み種だった。40代の中年で、とにかくコレステロールとハラスメントを詰めに詰め込んだような畜生である。時代錯誤のセクハラ・パワハラが日常化している上に性格は物凄く短気で、文句を言うようならば権力を振りかざして執拗に責め立ててくるという。
脂ぎった身体でスキンシップしてくるだけでも辛いのに、なんともまぁキモい声や顔が不快感を更に際立たせてるんだよね。言っちゃ悪いけどさ。オマケに仕事もできないし、不細工で性格も悪いとかもう豚糞以下だよね。私って口悪い?
職場には他にも若い女性社員が何人かいるが、こんな風にハッキリと嫌悪感を剥きだしにしているのは私だけ。それは逆効果なようで、反抗的な私は以前にも増して上司からセクハラの集中砲火を受けていた。
「はぁ……もっと上の者がしっかりしていればなぁ」
持ち場についた私が小さく溜息を漏らす。でも、この東部郵便局にそんなモラルは期待できない。福丸ほどではないが、この職場には全体的にセクハラ上司が蔓延しているからだ。それが分かった瞬間に、さっさと辞めれば良かったと心底後悔している。
「でも、いまの時期に辞めるわけにもいかないからな……」
今日は12月19日。間もなく年末年始ということで局内は慌ただしい。こんな時期に辞めてしまっては、多くの人にエライ迷惑がかかってしまうことが必至。12月入ってくらいから、事ある毎にアーアー!と辞めなかったことを嘆いていた。
「アーアー!! ……辞めたい」
低レベルな職場に嘆かざるを得ない。
「「おはよーございまーす!」」
と、そこで癒しの声が飛び込んできた。振り返ると、入口にはサルとスシとタニシが立っていた。バイト高校生のイケメン三人組である。
ギュイイ~~~ン↑↑↑↑(テンションがうなぎ上る音)
「ヤマメ姉ちゃん、おはよう!」
「サルゥ~! おはよ~! スシもごきげんよう! タニシ、髪切ったんだね、すっごく似合ってるよ!」
まるで子犬のように三人が尻尾を振って真っすぐ私の元に駆けてくる。いま年上の女性が熱いのか分からんが、何故か私は男子学生に慕われていた。
「って、今日は平日だけど……もしかしてもう冬休み?」
「うん。一昨日からね」
「あーあ。良いなぁ、学生って羨ましすぎる」
「でもぎっちりシフト入ってるから冬休みって実感ないよな」
「ああ、でもお陰でお姉ちゃんに毎日会えるぜ!」
「んはぁ!! さすが女に飢えた男子校の諸君、こんな姉さんでも発情しちゃう!?」
「あったりまえじゃん! 俺、最近毎日お姉ちゃんで……あ、いや」
「ねえ、お姉ちゃん、今日お昼空いてる? 一緒に食べようよ!」
「是非是非! 新しく開店した蕎麦屋どう? お姉さんが奢っちゃるよ」
「フゥゥウウウ!!!(同意)」
若し若し、いと若し。若い子達に囲まれると、なんだか私まで若くなったような感じがする。まず匂いが既に違う。嗅ぐだけで身体が浮くような。粘着質な嫌がらせを上司から日常的に受けても精力的に生きていけるのは全て彼らのお陰だと言っても過言ではない。いや、ホントにサル達がいなかったら私は今ごろストレスでどうかしていたかもしれない。サル達に感謝しつつ、心を躍らせながら営業に向かった。

…………。
事が起きたのは、サル達と合流する直前だった。
「ん、メール?」
車で局に戻る途中、スマホに一通のメールが届く。差出人を見て凍り付いた。
「福丸太志……なんか、クソ嫌な予感がする」
暗雲が立ち込める。震える指でメールを開いた。
『仕事の打ち合わせがあるから、お昼は空けといて。12時半に事務所に来てね』
「……は?」
スマホを握る手に力が入る。急な呼び出しに苛立ちを覚えたのではない。
「んっとにキモいな。魂胆が丸見えだっての……」
福丸は恐らく、私とサル達が楽し気にしていた今朝の会話を見ていたのだろう。自分に対する態度との違いが面白くないのだ。サル達と仲良くなってからは、こんな嫌がらせはしょっちゅうだった。
「クソッ、クソッ、クソがっ! そんなんだからモテねえんだろうが! 私に八つ当たりしてんじゃねぇよ。チッ、チッ! チッ!」
とどのつまりは果てなき舌打ち。車内をいいことに、爆発する私だった。

10分後、事務所内にて。
「いやぁ、急に呼んじゃってごめんね? 時間もないことだし、食べながら話そっか」
畜生の白々しさを後に、室内で二人っきりの昼食が始まった。
「ほら、ヤマメちゃんの好きな鶏五目のおにぎり買ってきたから食べてよ」
なんで鶏五目好きって知ってるんだ。カロリー消費する仕事だから昼食を摂らないわけにもいかないし食う他はない。私は無言でおにぎりを頬張った。
「…………」
美味え。ほっぺ落ちて顔が綻びそう。
でもコイツにそんな顔、見せたくないから――ムスッ!
「それで、打ち合わせってなんですか? ないんなら戻りますけど」
「あー、あるある! ヤマメちゃんに、一つお願いがあってさぁ」
言いながら、正面に座っていた福丸が何故か私の真横にやってくる。そして私の肩に腕を回して顔を近づけてきた。
「…………」
なんか、臭う。加齢臭っていうの? サル達の臭いは若返りの秘薬だったけど、こっちは臭い吸うだけで具合悪くなりそう……しかも、なんかギトっとしてる気がする。鼻息を荒くする福丸に青筋が切れそうになるが、こんなことで衝突してもしょうがない。
「それで、要件はなんですか?」

「えっと……局内の忘年会で、ヤマメちゃんに是非ピコ次郎をやってもらいたいんだ」
「……は? ピ、ピコ次郎?」
「あれ? 知らない? 最近すっごく人気なのに」
ピコ次郎とは、数か月前に突如として人気爆発したよく分からないなにかである。
「い、いや、知ってますけど。でも、なんで私がやらなきゃいけないんですか?」
「ほら、今年の忘年会は余興の時間が空いてるからさ。ヤマメちゃん、ダンス得意でしょ? 適任だよ。とにかく、お願いするね」
いや、そんなこと言われても困ります。そもそも、なんでダンスやってたこと知ってるんですか? どうたらこうたら。年末まであと1週間程度しかないというのに、上司命令で結局やることになってしまった。しかも一人で。←ここ重要
「仕事終わりにでも一緒にスタジオ行こうよ。練習できるスペースが欲しいでしょ?」
「いえ、自宅で出来ますんで。要件は分かりました、練習しておきます。それでは」
「あ、ヤマメちゃんっ」
話を一方的に打ち切って部屋を出る。これも嫌がらせの一種だろうが、なにかしらイベントがある時とか、こうして急に催し物を頼んでくることは前からもしばしばあった。私は、この職場のこういったところも大嫌いだった。
(意味わかんね。あと1週間しかないじゃん。しかもこの超クソ忙しい時期に練習しておけって)
今日も私の溜息は尽きないようだった。
…………。
夕方。次はお得意さんの所に営業だから気が楽だ。まだ1時間くらい余裕あるし、ちょっとだけ癒しに行ってこよう。車を旋回させて局へと移動する。
案の定、ロビーには仕事を終えた三人衆が携帯ゲームで遊んでいた。コーヒーやクッキーがタダだからなのか、彼らはいつも仕事が終わってもロビーに屯している。私が近づくと、スシが気が付いて小動物の如く駆け寄ってきた。
「あっ、お姉ちゃんだ!」
「おっ、マジだ。ヤマメ姉ちゃん、お疲れ様ッスー!」
「だいぶ疲れてるっぽい? ほら、座りなよ」
「…………」
キュゥゥウウウウン↑↑↑↑
「ぁぁぁぁ……サルぅ、スシぃ、タニシぃ……マジ癒しだわ……それと、ホントごめんね? お昼一緒に食べられなくて。ちょっと、奴に呼ばれちゃっててさ」
ドカッと顔から長ソファーにダイブする。
「奴って福丸でしょ? またセクハラされたの!?」
「んぁー、セクハラっていうよりも、今日はパワハラだね。実は……」
事の一部始終を話す。
「ああ、それピコハラだよ」
「へぇ。……え、な、なにそれ? そんなのがあるの!?」
「うん。最近話題だよ。――ホラ!」
スシがスマホで検索ページを見せてくる。
『忘年会でピコ次郎を強要する【ピコハラ】にウンザリする若者が急増!』
「マジか……私のように悩む若者が何人もいたのね」
ウンザリというより唖然とする。なんつーか、言葉が出ない!
「あぁー、元気出して? ほら、肩揉んであげるから……」
「あっ、サルッ! ずりぃぞ! お、俺も良いですかっ……?」
「…………お、俺も」

うつ伏せで寝そべる私に三人衆が奉仕をする。マッサージというより、全身を撫でられている感じだ。くすぐったくて、良い匂いがして、脳汁が溢れてかなりの夢心地。
「ふぁぁぁああ。やっべ、天国か、ここ。それとも、もしかして私にモテ期がきてんのか?」
「……モテ期かと思われ」
「マジで、ホントにぃ? こんなお姉さんでも恋愛対象に入るの?」
「いや、まあ………………入らないわけないじゃん、なぁ?」
顔を見合わせたかと思えば、三人が照れくさそうに背ける。ウブい。さすが男子校といったところか。それとも、ホントに私に気があるのか。なんにせよ三人とも可愛すぎて中心にいる私が蕩けそうでヤバい。
「そっかぁ。でも、高校生活は短いんだし、私なんかよりも同い年の子と恋愛した方がいいからね~?」
う~~ん、と一同が首をかしげる。ふと、タニシが口を開いた。
「あの……ピコ次郎のダンスだけど、これってヤマメお姉ちゃん一人で踊るの?」
「ん~? そうみたいだね。動画一回も見たことないけど」
赤恥をかかないよう、やっぱり多少の練習はすべきだろう。学生時代はダンス部で頑張っていたこともあるし、どうせ踊るなら真面目に取り組む他ない。……と、思いつつも、やはり強制的にやらされるものに気乗りはしないな。
なんてげんなりしている内に、タニシが言葉を続ける。
「よかったらで良いんだけど、俺も一緒にヤマメお姉ちゃんと踊って良い、かな?」
「「……えっ!?」」
タニシを除く三人の声が重なる。
「いやあ、一緒に踊れたら楽しいかな~って思ったりさ」
そんなことをタニシが顔を真っ赤にして言う。
「そりゃあ……私は別に構わないけど。むしろ、良いの?」
「ああ~~っ、待った待った! おい、抜け駆けすんなよ、タニシ! 俺もやるぞ! ね、良いでしょ?」
スシが慌てて間に入ってくる。サルもまた乗っかってきた。
「う、うん。それじゃあ、一緒に踊ろっか? でも忘年会まで休み殆んどないし、練習するとしても仕事終わりになっちゃうから、かなり辛いと思うよ?」
「そりゃあ、お姉ちゃんも一緒でしょ? な、さっそく今日から始めようぜ!」
「そうだね。それじゃあ、みんなで頑張ろっか」
ふぁ~。なんかホントに救われた気がする。福丸の命令で嫌々だったけど、この子たちのお陰で楽しく乗り切れそうだ。
私は、そう確信していた。

第二話 -畜生の告白-

四人で踊ることを決めた私たちは、その日の夜にさっそく打ち合わせをすることになった。そう、いま三人の男子高校生が一人暮らしをしている私のアパートに集まっている。
(だ、大丈夫なのか、これは。なんか、未成年を部屋に招いただけで捕まったってニュースを見たことがある気がする)
「ここがお姉ちゃんの部屋かぁ。やべぇ、なんか緊張してきた」
部屋に男を入れたのは実に数年ぶり。私も色んな意味でドキドキである。
「すっげ、めちゃくちゃ良い匂いする。ぁぅ……」
「スシ、お前なんで前屈みしてん?」
「あ、いや……」
「……あ、あはは。まあ、気軽に寛いでよ」
前屈みって、おい!!!!!!?!!?
それはともかく、時間もないことだし、まずは元となる動画を観よう。
「うわ、すごい再生数……」
パソコンで動画サイトを開く。三人衆の顔が私に目一杯近づいてきてドッキドキ。
『ペイ~ン、ポイ~ン、アッポ~ペイン♪』
真っ白な空間でイケイケのナイスミドルがクネクネと動いている。
「……奇怪だ」
「俺たちのクラスでも、いまこれめっちゃ流行ってるよ」
「ああ、体育の冬休みの宿題もコレだしな」
うーむ。私には理解できなかった。ちょっち、天邪鬼なところあるからな、私。
「まあ、でも動きは単調だし、思ってたよりは簡単そうだね」
「あ~、お姉ちゃん、侮っちゃ駄目だよ。やってみると意外と難しいからさ」
「うーん、完コピじゃなければ、そんなに難しくないと思うんだけど……実際にやらないと分からないか。今日はもう時間がないから、ひたすら見て動きを覚えることにしよう」
と言い、動画をリピートさせる。
「…………」
「この人すげーよな。こんな1分ちょいの動画で巨万の富を築いちゃったんだぜ」
「俺たちもなんか動画上げるか? 無限の可能性が見えるぜ」
「…………」
私のパソコンはノートブックと呼ばれる小さいものだから皆で固まらないと画面がよく見えない。だから右隣にはスシが、左隣にはサルが密着していて、タニシが私の背中に覆い被さっている。
「そういえば、3年のキジって先輩も動画あげてるらしいぜ」
「マジか? 学校始まったら、ちょっと話だけでも聞いてみっか!」
しかも何故か三人とも私の耳元に囁くように小声で話している。
「ねえ、お姉ちゃんは動画作るのに興味ある?」
「よかったら一緒に作ろうよ。絶対楽しいって!」
ぉお゙っ、ふぁ……ぁっ……!
「それ超名案! それならバイト辞めた後もずっと一緒に居られるしさ!」
「ねえねえ、どう? 一緒にさ……」
「ぁぁぁ……」
「ん? どうしたの、お姉ちゃん?」
あああ゙ああ~~っ、脳みそが液状化するんじゃあ゙ぁ~~~~!!!!

 

☆次の日☆
いつも朝は全力で暗色に染まっていた私だけど、今日の気分は絶好調である。もちろん彼らのお陰。今日からアッポーペインの特訓が始まるのだが、今からワクワクして止まない。あの子達といると、元気いっぱいになれるのだ。
(これって恋愛感情なのかなぁ)
とにかく、早く彼らに会いたい。
そんなことを考えていたとき、不意にお尻に謎の感触が伝わった。
「……ッ!?」
「おはよう。ヤマメちゃん」
振り返ると、そこに居たのはニタニタと汚い笑みを浮かべる上司の福丸。感触の正体は福丸の持っているクリアファイルだった。
「あ、おはようございます」
顔を顰めかけたが、最早こんな男どうでもいい。下らないセクハラにわざわざ反応していたら体力が勿体ない。
(それに……)
年始のドタバタを過ぎて落ち着いたら、いい加減にこの仕事を辞めようと思う。サル達も正月が明けたらバイト辞めちゃうし、私もわざわざストレス溜まる職場に留まっている必要はないと結論していた。
「あれっ、ヤマメちゃん、なにか良いことあったの?」
不快感を露わにしない私を不思議に思ったのだろう。福丸が疑問を投げる。
「ええ、少しだけ。……それじゃあ、営業に行ってきますね」
「ああ、待って待って! ダンスの練習はしてるの? 忘年会の為に、しっかり頼むよ?」
「昨日の今日ですよ。まあ、でも今日から練習する予定です」
吐き捨てるように言い背を向けようとしたが、報告を思い出して口を開く。
「ああ、そういえばダンスの件ですけど、私の他に三人ほどメンバー加えても良いですよね?」
サル達も一緒に踊ることになったと伝えた瞬間、福丸の顔から笑みが消えた。
「だめだめ、あの子達バイトじゃん。これは正社員のパーティなんだからさぁ」
嫌悪感を剥きだしに癇を立てる福丸に唖然とする私。
「アルバイトも参加できるって書いてありましたよ」
「彼らは未成年でしょ! 酒の席だから呼んじゃだめだよ」
「飲ませなきゃ良いじゃないですか」
「宴会に未成年を呼ぶことが問題なの!」
ああ、ヤバいヤバい。反論しても一利もないのに。
「でも仕分けの女子高生は来るんですよね? さっき小耳に挟んだんですが」
まさか反対してくるとは。見苦しい口答えを叩き落とすと、福丸は口籠って顔を真っ赤にする。数舜後、私によくわからない怒声を浴びせてきた。
「なんなの、君? 上司に逆らってんじゃねえよ! 首にされたいん!?」
そうしてくれると一番有り難いんだが。というか、段々腹立ってきた……。
「いえいえ、とりあえず営業があるので、そろそろ失礼します。この件は貴方ではなく他の上司と話し合うことにします」
みんなが見ている中、颯爽とその場を離れる私。あまりにも理解不能な生き物と話してたせいで血管が破裂しそうだ。こんなときは癒しを……と感じる前に、救いは向こうからやってきた。
「お姉ちゃん……大丈夫?」
「みんな、おはよう。うん、大丈夫……だと思う」

サル達が心の底から心配してくれている。私って上司以外にはホント恵まれてると実感。
「俺たち、忘年会に出席できないのかな」
サルが悲しそうな顔をする。
ああ、サルのこんな顔、見たくない。悲愴な表情も可愛いんだけども。
「そんなことないよ。アイツは私に嫌がらせしたいだけ。安心して、私がなんとかするから。さっそく今夜練習しよ?」
笑顔を浮かべると、サル達の顔にも笑顔が灯った。うんうん、やっぱこうでなきゃ。
「そうだね。ねえ、今日のお昼は空いてる!?」
「もちろん! 邪魔が入らなければ、ね……」
僅かに首を傾けて横目で背後を確認する。福丸がコッチの様子を覗いているような気がした。
(ちっと、揶揄ってやるか)
「それじゃ、これから営業に行ってくるから。うぬらも仕事頑張ってね」
激励の言葉を送り、ぽんぽんとサルの頭を軽く撫でた。
「うわっ、わっ!」
撫でられてポッと紅潮しながらサルが慌てふためく。それを見てスシとタニシが黙っている筈もない。
「グイーーン(頭を差し出す)」
「ははっ、カワイイ奴らよの。よしよし」
と、両手で二人の頭を撫でた。……そのとき、背後で動揺の走る気配を感じた。
「…………それじゃ、またね。今日こそお蕎麦食べに行こうね」
と言って、割と気恥ずかしくなった私は、熱くなった頬をマフラーで隠しながらそそくさとその場を去った。
もしかしたら、この挑発は間違いだったのかもしれない。背後に感じていた不穏な気配にもう少し注意していれば、あんなことにはならなかったのだ。

 

☆お昼休み☆
今日こそ皆でお蕎麦を――と思ったが、案の定今日もスマホに一通のメールが届いていた。当然、差出人は福丸。至急こっちに来いとのこと。無視したい衝動に激しく駆られたが、以前にもメッセージを無視したことがあり、そん時はとんでもなく面倒なことに巻き込まれてしまったので、ここは断腸の思いで従うことにした。
福丸の居る事務室に入る。なにやら重要なことがあるとのことだ。
「それで、なんです? 今日こそちょっと早めに抜け出したいんですが」
「そんなにあのガキ達と蕎麦屋に行きたいの?」
あのガキ達? のっけから畜生らしからぬ刺々しい物言いに、なにか嫌な予感がした。
「そうですね。それより、サル達の出席について考え直してくれましたか?」
「ああ、それね。直す直さないに関わらず、もう彼らは此処には来ないよ」
畜生らしからぬ冷めきった口調。畜生らしからぬ態度に、沸々と良からぬモノが芽生えてくる。
「どうしてです?」
「アイツら、ここ辞めたから」
「……は?」
その言葉を予想していたわけではないのだが、先ほどからグツグツと頭の中で煮え滾る何かが順調にカタチを成していっている。
「なんで?」
「実はねー、さっき君が外に出たとき、アイツら僕に文句言ってきたんよ」
「なんか、あることないことほざいてさ。仕舞いには胸倉掴まれたからその場で解雇したよ」
舌ったるく喋る畜生の声がノイズにしか聞こえない。

「……………………ファック丸」
ヤバい、ヤバい。タカが外れそう

理性が塞き止めようと慌てるが、最早収まりは効きそうになかった。

*執筆中です。

早く続きを書くよう急かすボタンです。

この作品が気に入りましたか?